「桐生ノコギリ屋根工場で黙々と演劇するパラシュート・ウーマン」
(「芸術新潮」2003年10月号)
今年の3月、藤田康城の演出による安藤朋子のひとり芝居「Parachute Woman」をみた。二人を中心にした演劇ユニット「ARICA」の第3回公演。優れた舞台だった。さっそく再演とはめでたい。初演は東京だったが、今度は桐生市内の、大正6年に建てられたノコギリ屋根工場での上演だ。女がパラシュートを作る。ミシンで縫って、ときおりラジオをきいたり水を飲んだりしながらも縫いあげて、巨きなアイロン台にパラシュートをひろげてアイロンをあてれば出来あがり。舞台で演じられるのは労働である。特定の目的にむかって手順の整えられた75分ほどの作業の連なりである。およそ非実用的な動きの反復が舞台に興趣を添え、ミシンは実際にガタゴト音をたて、アイロンはシューと湯気をあげる。私たちは何をみるのか? 半ば架空の労働、虚実のあわいをすすむ身体行為の一部始終、すなわち演劇それじたい。ルティンワークに黙々と没頭する安藤朋子が、いま一回限りの、昨日や明日とはけっして同じではありえない動きを(人生を)生きているかのようで、素敵だ。本作で藤田康城は注目に値する演出家となった。